高松高等裁判所 昭和42年(ネ)266号・昭46年(ネ)191号 判決
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〔判決理由〕(一) 控訴人は、昭和四三年一二月一二日到達の内容証明郵便による延滞賃料の支払いの催告及びその不払いを理由とする本件土地賃貸借契約の解除を、予備的請求の原因として主張する。
(1) この主張に対し被控訴人らは、それが時機におくれた攻撃方法である旨主張する。《中略》かような訴訟の経過からすれば、控訴人の右主張が時機におくれた攻撃方法であり、訴訟の完結を遅延せしめるものであるとはとうてい認められない。この点の被控訴人らの主張は失当である。
(2) そこで控訴人の右主張について検討するが、控訴人主張の延滞賃料(地代)差額金の支払等の催告書並びに本件土地賃貸借契約解除の通告書が発送されたことは当事者間に争いがない。そして右各書面が被控訴人ら先代亡山本俊郎に到達した事実は、控訴人と被控訴人山本アサエ、同山本瞭史の間では当事者間に争いがなく、(被控訴人らは、右到達の事実の自白は真実に反しかつ錯誤に基づくものであるから撤回する旨主張するのであるが、乙第一五号証だけでは、当時右山本が右各書面の内容を理解する能力がない状態の病状にあつたことを認めるに十分でないし、またこの点に関して被控訴人山本英雄、同山本瞭史各本人尋問の結果はたやすく採用できず、他にこの点の被控訴人ら主張の事実を認めるに足る証拠がないので、自白の撤回は許されない。)、控訴人と被控訴人山本和子、同安藝喜子、同山本英雄、山本雄三間では、右事実は、<証拠>によつて認められる。ところで賃貸借関係において、提供された賃料の受領を拒絶し、(この場合、特段の事情がない限り、その後において提供されるべき賃料についても受領拒絶の意思を明確にしたというべきである。)受領遅滞の状況にある賃貸人は、先ず自己の受領遅滞を解消させるための措置を講じたうえでなければ、賃借人に対し債務不履行の責任を問うことを許されないものというべきである(最高裁判決昭和三五年一〇月二七日第一小法廷言渡―集一四巻一二号二七三三頁、同昭和四五年八月二〇日第一小法廷言渡―集二四巻九号一二四三頁参照)。而して本件の記録並びに<証拠>を綜合すれば、控訴人は、昭和三二年その先代を相続の頃、被控訴人ら先代で本件土地の賃借人の亡山本俊郎の妻(被控訴人山本アサエ)が約定の賃料(地代)を持参したところ、明渡して貰うつもりだから受けとれないといつて、その受領を拒否し、その後被控訴人ら側から供託された賃料についても、土地賃貸借契約の事実はないからと称して永年にわたつて受領を拒否し続けてきたものであるが、遂に昭和三八年一〇月三〇日被控訴人ら先代に対し土地明渡を請求する本訴を提起するに至つたものであること、その後原審で本位的請求である明渡請求は棄却されたが、予備的請求である賃料増額の請求が認容されると、一方で本位的請求に関して本件控訴を提起しながら、他方その後において、右被控訴人ら先代に対して延滞賃料差額金の支払いを請求する内容の催告書を送達する挙に及んだものであることが認められ、この認定に反する証拠はない。してみると控訴人は賃貸人として受領遅滞の状況にありながら、賃貸借契約の存続を否認する従前の態度はこれを改めることなくして、あえて増額賃料を基準とする延滞賃料の支払催告に及んだものであつて、控訴人として、とうてい受領遅滞を解消させるための措置を講じたものとはいえないので、この催告及びそれに基づく賃貸借契約解除の意思表示は、その余の争点に対する判断を待つまでもなく、すでに以上においてその効力を生じないものであることが明らかというべきである。
従つて、控訴人の予備的請求の原因の主張は失当である。
(二) 被控訴人らは賃料(地代)はすでに支払いずみである旨を主張する。
而して<証拠>によつて、被控訴人ら主張の各供託がなされていることは明らかであるが、しかし被控訴人ら先代がなした各供託分は、前認定(原判決引用)の本件土地の増額賃料額と対比して、最も多額の場合でも、増額賃料の二分の一に満たない程度の少額に過ぎず、とうてい債務の本旨に従つた有効な弁済供託がなされたものとは認められない。従つてその後になされた被控訴人山本英雄の代理による供託もまたこれを有効な弁済供託と認めるに由ないものというべきである。
従つて右弁済供託によつては、被控訴人らは、賃料債務を免れることはできないものというべきであり、被控訴人らの支払いずみの主張は採用できない。
(合田得太郎 谷本益繁 後藤勇)